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あのいかにもなシチュエーションで
放課後の音楽室で、あなたが貸してくれたCDを、よく聴いていました。

それらのCDにとりわけ興味があったわけではありませんでした。
あなたに「借りる」という行為こそが
わたしには大事だったのです。

なにを聴いていたのか
誰のどんな曲があったのか
誰指揮の どこの楽団か
一生懸命覚えようとしていたそういうものを
もうすっかり忘れてしまいました。

覚えようと思ったのだって 別に覚えたかったからじゃなくて
一生懸命教えてくれるあなたに応えてみたかっただけだったのです。

でもどうしても忘れられない曲があります。
あの一発屋的作曲家の、若い、青い、交響曲です。







それまで、交響曲なんてわたしには絶対に縁のない音楽だと思っていました。
今だってそう思っています。
でもあの曲を初めて聴いたときの衝撃は、まだ忘れていないし
いまだにこんなふうに、突然聴きたくなったりしてしまうのです。

いきなり第5楽章から再生し始めたわたしを見て、
あのときあなたは嬉しそうな顔をしました。
あれ以来、この曲をかけるとき
必ずわたしは最初に5楽章をかけるのです。
習慣となってしまいました。
思い入れがあるから ただそれだけの理由です。

どうしてひさしぶりにこんな曲を聴きたくなったのか
自分でもわかりません。
でも聴きたくて 聴きたくて 聴きたくて
どうしようもなくなってしまいました。

以前持っていたCDはもう実家に送ってしまっていたようなので
中古レコ屋で買い直しました。
(この曲しか入っていないCD、初めて見つけました。
たいていワーグナーとかブラームスなんかの交響曲と
カップリングされてるんですよね。
その分この楽団はあなたが気に入ってたものではないはずですが)

「クラシックなんて」という考えをこの曲が打破してしまったのは
この交響曲が明確なストーリー性を持っているからかもしれません。

でもその前に、この曲を作った人が
あまりにも青くて若くて痛かったから だから入りやすかったんだと思います。

当時のわたしは、クラシックの作曲家というのは
厳しい顔をして壁に貼られている色褪せた肖像画以外の何物でもなくて
彼らが作る音楽というのは「降りてきた」ものを具現化したひとつのイメージであって
それは凡人には理解のできないインスピレーション的なものでしかなく、

まさか

「阿片服用しながら失恋の腹いせに恋愛というモチーフを繰り返しの主題として作った曲」

なんてものが存在しているなんて、想像もしませんでした。
だからそれだけで親しみが湧いてしまったのです。

「すごい」と、あのときわたしは言いました。
なにがすごいと思ったのか、上手く説明できませんでしたが、
「すごいわかりやすい」と言いたかったんです。

自分が知っている、もしくは知らないまでも想像できる範囲の世界観を
越えたものを、体験したような感覚を覚えました。
薄らと感じているものを、言葉や、音楽に形を変えて
再認識させられたことは、それまでも何度もあったものの、
この手のジャンルの音楽に感じさせられたことはなかったのです。

あのときいえなかったものを、言葉に表してみました。
まだ全然駄目ですね。
もうこれを採点してもらう機会もありませんが。


第1楽章 
      夢・情熱 恋愛のキラキラした感じ 不安 躁 その後に来る欝 
      希望 絶望 また希望 また絶望
      美しいものに対する渇望 つまり片思い
第2楽章 
      舞踏会 そこで見かけた彼女の姿 その美しさ 感嘆の思い 賞賛 ワルツ
第3楽章 
      野辺の風景 恋人と出かけるピクニック 幸福のひととき 
      遠くに聞こえる羊飼いの笛の音 心によぎる不安 懸念 雷鳴 日没
(主人公の芸術家は不実の疑念から彼女を殺してしまう)
(そして死刑判決)
第4楽章  
      断頭台への行進 騒がしい観衆
      死の直前に今一度脳裏を横切る彼女の美しい姿、その鮮やかさといったら!
      ‐‐そして次の瞬間落ちるギロチンの刃(わたしはこの瞬間の衝撃に、
       いまだにびくっとしてしまうのです、相変わらず)  
      沸き上がる観衆
第5楽章 
      地獄に落ちた主人公 地獄の情景の描写 
      そこに現れたかつての恋人は、もはやかつての気高さも気品もなく
      下卑た娼婦となりはて 主人公の前で悪魔と交わる
      主人公の葬儀

5楽章の、チューバからピッコロまでゆるかにつながるパッセージも、
Eクラのいやらしさすらも、なんだか狂っていて美しいですね。
もっと聴き込んでからちゃんと曲名つきで書き直したいです。
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by manamizw | 2005-03-28 18:08 | music